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東京地方裁判所 昭和30年(ワ)10122号 判決 1957年3月16日

東京銀行

事実

原告株式会社東京銀行は請求の原因として、被告滝本信治は昭和二十七年四月原告と取引契約を結び、期日に不払の場合は原告は金百円につき一日金三銭の損害金を徴することとし、被告安永一は被告滝本信治の為に保証した。よつて原告はその約に基き同月十九日被告滝本信治に対し金四拾万円を貸付けたところ、同被告はその支払方法として原告宛に約束手形を振出し、被告安永一はこれにも保証人として連署した。而してその約束手形はその後書替え、昭和二十七年八月十五日附金額四拾万円満期同年十月十三日とせられたが、原告は満期にこれを支払場所に呈示してその支払を得られなかつた。その後被告等は七回に亘り合計金二十一万五千五百四十円を元本中に弁済したので、原告は残元金十八万四千四百六十円並びにこれに対する百円につき一日金三円の損害金について被告等の連帯支払を求めると述べた。

被告滝本信治は、同被告に関する限り原告の主張する事実は認めると答弁したが、被告安永一は、同被告が原告に対し被告滝本信治のために保証を為したとの点を否認し、その余は総て不知と答弁した。

理由

原告株式会社東京銀行と被告安永一との関係につき按ずるに、証拠を綜合すれば、被告安永一は原告銀行新橋支店附近において囲碁の会所を開設しているものであるが、囲碁に関しては優秀な技術を有するに反し、その他の方面には全く知識才能なく、後援者であり支配人ともいうべき地位にある被告滝本信治に依存して会所の経営、自己の生活を為す有様で、金銭収支等一切を挙げて同被告に委託し、同被告が被告安永一の名において行動することを許容していたので、被告滝本信治は委託に基き、会所の収入の一部を以て原告銀行新橋支店に預入れ、被告安永一を表示する印章を他に註文し製作せしめて区役所に印鑑届出をなし、これを使用して銀行取引をなし来つたこと、被告滝本信治は昭和二十七年四月十九日必要あつて原告新橋支店より金四十万円の手形貸付を受けるに当り、取引契約書及び手形に被告安永一の氏名を保証人として記載し、その名下には自ら保管中の前記安永一を表示する印顆を押捺し、これにより原告新橋支店より金員の交付を得、自己及び被告安永一の用途に費消したこと、その貸借においては期限後の損害金は金百円につき一日金三銭の割合と定められて居り、期限は当初定められた昭和二十七年六月十七日より同年八月十五日に延長されたこと、同年十一月十八日その金四十万円の内入弁済に充てた被告安永一名義の定期預金十万円も、被告滝本信治において被告安永一を代行してなした関係にあることが十分窺われるのである。してみると、被告滝本信治において本件保証人を立てるに際し、具体的に逐一被告安永一に報告し、その承諾を受けなかつたとしても、予め包括して委託された範囲においてなされた行為に外ならないから、被告滝本信治が被告安永一に代理してなした所為は有効と解するのを妥当とする。仮りに一歩を譲り、被告滝本信治には被告安永一に代りその名において原告新橋支店と保証契約まで取結ぶ権限がなかつたにしても、被告両者間の関係は前叙のとおりであり、被告安永一は囲碁会所の運営殊に経済面に関しては被告滝本信治に何らかの代理権を賦与し、同被告の行為に制限を加えるようなことはなかつたものと認められる以上、原告新橋支店員が被告滝本信治に被告安永一を代理して保証契約をなす権限ありと信ずるのは当然で、従つて被告安永一は被告滝本信治の行為につき責任を辞することを得ない筋合である。よつて被告安永一も亦被告滝本信治同様原告の求める元本残並びに未払損害金につき支払義務あるものといわねばならぬとして、原告の請求を総て正当であると認容した。

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